赤外線

気付くと目の前で50代くらいの日雇い人夫のような2人が、携帯を付け合わし赤外線受精に挑戦している。電車の中の話だ。緊張しているのか2人とも無言だ。そしてどうやらうまく受精しないようで、向かって右の日雇いのボタンを押す親指の力が段々強くなっていくのが分かる。ボタンを押す力が増すごとに最初はおへその高さあたりにあった携帯が段々高くなってくる。それに合わせて向かって左も釣られて携帯の位置が高くなっていく。

あー、奪いたい。
お前らの手から、今すぐ携帯を奪いたい。
そして俺がその携帯たちを両手に持って、受精を完了させたい。

そもそも、そんなお前らが必死になって移植した情報の正体ってなんなんだ。日雇い現場で知り合って、仲良くなって個人情報の交換でもしているのか、と思っていたら、これはある程度想定していたのだが、右が携帯を振りだした。

『出てんのか、これ』

確かにそう言った。それに対して左が、

『出てはいるんだよ』

と応じた。


下手すりゃこれは赤外線の温度を手で確かめようとするんじゃないか、そんな期待までしてみたが、さすがにそれはなかった。