距離感

義理の実家にいるのは未だに落ち着かなくて、泊まりともなると小説の2,3冊が必要になるのだが、こうやって文字にしてみたら、紛れもなく

お義父さん
お義母さん

と落ち着くわけなのに、口に出すとそれは、

おとーさん
おかーさん

なのであって、そう呼ぶのにもまだ照れがあるので、

おどーさん
おがーさん

と呼べればまだ気持ちも楽なのだが、そんなわけにもいかない。特に困るのが軽い挨拶であって、朝起きて、『おはよう』はさすがに軽すぎるので『おはようございます』くらいは何ともないんだけど、昨晩ね、することもないのでスーパー銭湯に行き、2時間くらいサウナで汗を流してから帰ったんだけど、年上の義理の妹が迎えにきてくれて、で、家に着いて義妹は車を車庫に入れるので俺は先に降りて家に入ったら茶の間にね、おどーさんとおがーさんしかいないの。北斗は空大を寝かしに2階にあがってしまっていてね。うわー、と思って。こんな時さ、軽く

ただいま

って言えないのよ、俺は。義理の実家って『ただいま』の距離感じゃないの。だから一瞬で色んなことを考えます。というか、起きてろよ、空大。

多分ね、おどーもおがーも、そんなことは気にしてないと思うんだけど、俺はダメなんだ恥ずかしくて。世界が選ぶ繊細な人100人に選ばれたことある俺がね、そんなフランクにはなれないわけですよ。だから、

ただいまです

と、それとなく敬語感を漂わせてみようと思ったけど、これじゃフグ田タラ夫だし、

ただいま戻りました

じゃ、営業帰りかって話だし、

ただいま帰りました、

じゃ、敗残兵みたいだし、結局クチから出たのは、

『すいません、今』

いや、おっどーもおっがーもおかえりって言ってくれましたけどね。

あとさ、食事の後、
『ごちそうさまでした』
と言うと、気まぐれにおっがーが、
『お粗末様でした』
と言ったのよ。食卓に並んだのが、トンカツ、エビフライ、煮込みハンバーグ、たけのこと鶏肉の煮物というね、なんかもうカロリー大集合みたいな献立でだね、これのどこがお粗末なもんかい!お粗末に様付けんな!と思ったんだけど、そういうね、日本人の美徳的なものに対して俺は対応が遅れるのな。『お粗末様でした』と言われている以上、なんらかのコメントを返すべきだとは思いながら、何をどう返していいか迷った挙句、出てきた返しが、

『とんでもねぇ』

百姓か、俺は。