ヒッチハイク

昨日さ、本当に大変なことになっていたんだ。

野球を観に行ってさ、石井琢朗がプロ通算100号を打ったんだよ。プロ入り21年目で100号って史上最遅のペースでつまり琢朗のホームランを観れるというのはかなりレアなんだけど(一昨年昨年といずれもも2本ずつ)、節目の100本目を生で見れるとは予想だにしていなかったものでね、2000本安打も100本目も生で見れたという運に俺はもう舞い上がって舞い上がって、お父さんともがっちり握手をして、ベイスターズが空気を読んでいればこれ以上無い気持ちで帰路につけたんだけど、本当にベイスターズっていうのはさ、琢朗が2000本安打の試合では負け、昨日は昨日で5点差をひっくり返すとかね、どうしようもない球団なんだけど、試合が終わって、後援会の人々は栃木の佐野からバスで出てくるんだけど会長が『乗ってけ』って言うんだ。俺もさ、酔ってたし、適当なところで下ろしてもらおうと思って軽いノリで乗ってしまったんだけど、これがそもそも間違いだった。

とりあえずバスが大黒ふ頭のサービスエリアで休憩に入ったのね。で、これ以上乗っていたら俺、佐野まで行くハメになるなと思って、じゃー、ここで、ってお別れしたの。バスを見送ってね、さー、帰ろう、と思ったんだけど、考えてみたら帰る術がないのよ。俺、車を運転しないから自分の判断が誤っていたことに気付くのが遅くて。高速道路に徒歩で来たみたいな状況になってて。

それでも最初はまだ気持ちにも余裕があったの。いやー、琢朗、素晴らしかったな、とか浸ってられたの。タクシーくらい来るだろって思ってたし。でも来ない。全然来ない。仕方がない、呼ぶか、と思って電話帳でタクシー会社調べて電話して、最初の会社に電話したら

『ふざけないでください』

みたいなことを言われて切られたのよ。ふざけてねーよ!真面目だよ!と思ってさ。で、もうひとつの会社に電話してね、事情を説明したら、少々お待ちください、って言われてね、それで待ってたら、電話が切れたの。おい、なんだよ、と思ってかけ直そうとしたらiPhoneの充電がなくなってたの。

あ、俺、ヤバい。

とここにきてやっと真剣に途方に暮れることにしてね。
途方に暮れるっていうか、なんかもう怖くなって。
俺、どうなっちゃうんだろう、って怖くなって。

で、こうして焼きそば食っていても現状は何も変わらないわけだから、俺、ヒッチハイクすることにしたんだ。サービスエリアの出口に向かう道路の脇に立ってね、通り過ぎる車に手を挙げたり、頭を下げたり。何台かは止まってくれた。若い兄ちゃんが『何、ロケ?』とか言った。『違います』って言ったら『なんだー』って行っちまいやがった。とにかく事情を説明して『どこでもいいから近くの駅まで』ってお願いしてるのにみんなに断られた。ミッキーのかわいいTシャツ着ているのに。

あー、俺、もうダメかもしれないな、

と、植え込みに座って茫然自失としていたら、白バイの人みたいなのがやってきてね『どうしたの』と。で、また事情を説明したら、特別に裏から出してくれて、そこでタクシーを拾って無事帰宅。

家についたら嫁が言いました。

『このダメ人間!』