日焼け止め

嫁がね、俺が息子と散歩に行こうとすると、

『日焼け止め塗れよ!おら!』

と怒鳴るんですよ。私はほら、知ってるかどうか知りませんけどね、温厚な人間ですよ。俺が風呂だとしたら老人がどこからともなく寄ってきては『あー、極楽極楽』と言いますよ。雪山で遭難した人が私で暖を取って助かったこともありますよ。俺の横においてあったかき氷が3時間で溶けたこともありますよ。でもね、この一言には本当にイラっとするわけですよ。何が日焼け止めだと。何様のつもりだと。女の子ならまだしも、男の子ですよ。俺たちなんか日焼け止めなんか塗らずに育てられた世代ですよ。団塊の世代が、産んだ愛の結晶は、日焼け止めなんか塗らずに生きてきたわけですよ。だから俺はね『はいはい』と言いながら塗ったフリをするんですよ。ささやかな抵抗ですよ。すると息子が言いますよ。

『パパ、ちゃんと塗ってよー』

『ちゃんと塗れよ!おら!』

こんな世界で私は生きていますよ。